2012年02月06日

プロダクト・バイ・プロセス・クレームを考える その1 特許の審査と訴訟における請求項の解釈の違い

 化学などの技術分野の発明では、物質の構造などで発明を特定できない物があります。
このような場合、特許の請求項では製造方法で物を特定し、例えば「〜の方法によって製造された物質」といった表現をします。
 製造方法で物の発明を特定した請求項を、「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と言います。
 プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて特許・実用新案審査基準と特許権侵害差止請求控訴事件の判例(平成22年(ネ)第10043号 以下、「判例」と記載)を読み比べてみました。

 今回は「特許の審査と訴訟における請求項の解釈の違い」と題し、審査と侵害差止請求事件におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の違いを紹介します。



1.審査基準における請求項の解釈

 出願した発明の新規性(特許法29条第1項各号)と進歩性(特許法29条第2項)を判断、または判断材料の提供を目的として行う先行技術調査では、特許・実用新案審査基準に基づいた調査をする必要があります。

1−1 新規性

 特許・実用新案審査基準によると、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの新規性の判断の方法について、次のような記載があります。

 請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には、1.5.1(2)にしたがって異なる意味内容と解すべき場合を除き、その記載は最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(注)。
 したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。

 注意書きには、「出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、このように解釈する。」という記載があります。

 審査における本願と引用文献の対比については、特許・実用新案審査基準には次のように記載されています(参考資料2)。


 当該生産物と引用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、その他の部分に相違がない限り、新規性が欠如する旨の拒絶理由を通知する。
 ただし、引用発明特定事項が製造方法によって物を特定しようとするものであるような発明を引用発明としてこの取扱いを適用してはならない。

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームで記載された発明について、審査官が一応の合理的な疑いを抱く例は次の通りです(ただし、特例の手法によらずに新規性の判断を行うことができる場合には、通常の手法によって対応します)(参考資料2)。

・請求項に係る発明と出発物質が類似で同一の製造工程により製造された物の引用発明を発見した場合
・請求項に係る発明と出発物質が同一で類似の製造工程により製造された物の引用発明を発見した場合
・出願後に請求項に係る発明の物と同一と認められる物の構造が判明し、それが出願前に公知であることが発見された場合
・本願の明細書若しくは図面に実施の形態として記載されたものと同一又は類似の引用発明が発見された場合



1−2 進歩性

 特許・実用新案審査基準によると、プロダクト・バイ・プロセス・クレームで記載された発明の進歩性の判断について、次のように記載されています(参考資料3)。

 当該生産物と引用発明の対応する物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が類似の物であり本願発明の進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、進歩性が欠如する旨の拒絶理由を通知する。
 ただし、引用発明特定事項が製造方法によって物を特定しようとするものであるような発明を引用発明としてこの取扱いを適用してはならない。

 審査官が一応の合理的な疑いを抱く例は、次の通りです。

・請求項に係る発明と出発物質が類似で同一の製造工程により製造された物の引用発明を発見した場合
・請求項に係る発明と出発物質が同一で類似の製造工程により製造された物の引用発明を発見した場合
・出願後に請求項に係る発明の物と同一と認められる物の構造が判明し、それが出願前に公知の発明から容易に発明できたものであることが発見された場合
・本願の明細書若しくは図面に実施の形態として記載されたもの又はこれと類似のものについての進歩性を否定する引用発明が発見された場合



2.特許権侵害差止請求における請求項の解釈

2−1 特許権侵害差止請求控訴の事例

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームで記載された発明の侵害に関する判例は、平成24年1月27日に知財高裁の大合議で出された判決(平成22年(ネ)第10043号)が参考になります(参考資料4)。
 この判例は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームで記載された発明の侵害は、クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定されるとした事例です。
 この事案は、本件は,発明の名称を「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物」とする特許権(特許第3737801号)を有する控訴人が,被控訴人に対し,被告製品は控訴人の特許権を侵害するとして,被告製品の製造販売の差止め及び在庫品の廃棄を求めた事案で、特許権の請求項に記載された発明は、製造方法で物を特定したものでした。
 重要な争点は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈でした。

 判決文(要旨)の「(1) 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について」のアに、特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。
 特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,
法的安定性を害する結果となる。
 そうすると,本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。

 と記載されています。

 イでは、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを便宜上「真性プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と「不真性プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の2つにわけて判断していました。

・「真性プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」
=物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため、製造方法によりこれを行っているとき。
 発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく、同方法により製造される物と同一の物」と解釈される。

・「不真性プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」
=物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき。
 発明の技術的範囲は、「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈される。

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームが真性プロダクト・バイ・プロセス・クレームか不真性プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるかの判断は、真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者が「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証できるか? で判断される。(立証できない場合は不真性プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして、発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当)との趣旨が記載されていました。



3.考察

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて特許・実用新案審査基準と判例の読み比べた結果、審査では製造方法によって特定された物の発明を「物の発明」として扱っています。
 一方、特許権侵害差止請求控訴事件の判例では請求項の記載内容に忠実に従い、発明された物がその構造または特性により直接的に特定することが出願時において不可能または困難であると主張できない場合は、請求項記載の物の発明は請求項に記載された製造方法に限定されるとして扱われていました。
 平成22年(ネ)第10043号の判決を受けて、製造方法により特定された物の発明を特許出願し、権利行使を目指す場合は、明細書に発明された物がその構造または特性により直接的に特定することが出願時において不可能または困難であるとの主張を記載することが望ましいと思われました。
 余談ですが、製造方法について権利化する場合は、特許・実用新案審査基準の記載内容に合わせて、製造方法の特許として請求項を記載する必要があります。



4.参考資料

1 特許・実用新案審査基準 第2章 新規性・進歩性1.5.1(3)製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tjkijun_ii-2.pdf

2 特許・実用新案審査基準 第2章 新規性・進歩性 1.5.5 新規性の判断(4) 製造方法による生産物の特定を含む請求項についての取扱い
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tjkijun_ii-2.pdf

3 特許・実用新案審査基準 第2章 新規性・進歩性 2.7 製造方法による生産物の特定を含む請求項についての取扱い
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tjkijun_ii-2.pdf

4 平成22年(ネ)第10043号 特許権侵害差止請求控訴事件
http://www.ip.courts.go.jp/documents/pdf/g_panel/10043.pdf
(平成23年2月5日現在、知財高裁のサイトには要旨のみが掲載されています)



 次回のブログでは、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許調査について書く予定です。

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posted by NEDS at 02:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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