2012年05月07日

特許判例百選(第4版)から学ぶ調査の考え方 実施可能性と発明の同一性

 「特許判例百選 第4版」(別冊ジュリスト No.209号 2012年4月4日 有斐閣)に,特許調査に役立ちそうな判例と解説が掲載されていましたので紹介します。

  今回紹介する判例は,本願記載の発明と引用文献の対比について、具体的な事例からその考え方を学ぶことができるものと思われました。


 特許調査の注意点

・本願の請求項記載の発明と引用文献記載の発明は,表現形式(特性など)ではなく,開示された技術的思想の実質的な対比によって判断する。
・本願の請求項記載の発明と引用文献に記載された発明が異なる特性によって特定されている場合,「請求項に係わる発明の機能・特性等が他の定義又は試験・測定方法によるものに換算可能であって,その換算結果からみて同一と認められる引用発明の物が発見された場合」であるか否かを検討する。


 以下,記事の内容の簡単なまとめです。



13 刊行物における発明の開示の程度(P28−P29)
 平成19(ワ)第26761号
 特許権侵害差止等請求訴訟事件
 判時2036号125頁,判タ1303号289頁


<事実の概要>

 出願人Xの本件特許発明は、特許請求の範囲を「水とは別に約93重量%以上のアカルボース含有量を有する精製アカルボース組成物」とする物の発明。
 → アカルボースの「純度」を限定した点に特許性が求められる。

 Yはサッカラーゼ阻害「比活性」が77,700 SIU/gである旨の記載があるアカルボースを記載した2件の特許文献(Xの出願によるもの。以下「引用文献」という)が存在すること,および,明細書に純粋なアカルボースの比活性は77,661 SIG/g程度である旨の記載があることなどを指摘し,優先日前に純粋なアカルボースが刊行物に開示されていたとして,新規性喪失による特許無効の抗弁を主張した。
 → 引用文献に記載された「比活性」により,Xの特許発明の「純度」の新規性を否定しようとした。

 しかし,引用文献にアカルボースの純度や精製方法は示されておらず,また,優先日以前にアカルボースの純度の測定方法が知られていたことを示す証拠はなかった。
 引用発明の比活性が純粋なアカルボースの比活性を上回るという矛盾もあった。



<判旨と解説>

1.発明の同一性(本件特許発明と引用文献に記載された発明は同一か?)

・本件特許発明と引用文型に記載された発明の比活性量が極めて近く、引用文献に記載されたアカルボースの純度は,厳密には確定できないとしても,100重量%又はそれに極めて近接したものであると認められる。
・引用文献にアカルボースの純度は開示されていなかったが,「『精製アカルボース組成物』におけるアカルボース以外の成分が不純物であることに照らせば,比活性が高いほど,それに比例してアカルボースの純度も高くなるものと解され,そのことは問う業者であれば容易に想定できるものであると認められる」。
・「比活性により規定されるアカルボースと当該純度のアカルボースが物質として同一であることを否定するのは,不合理といわざるを得ない」。

 以上のこと等から、「純度100重量%またはそれに極めて近接した純度のアカルボースが引用文献にに記載されていたものとするのが相当といえる。」
 (本件特許発明と引用文献に記載されたアカルボースの比活性の差は、測定誤差の範囲内と推測される)


2.実施可能性と刊行物適格性
 引用文献が「刊行物」といえるためには,一般に出願時の技術水準を基礎として,当業者において「特別の思考を要することなく,当該発明を実施しうる程度に」発明が開示されていなければならない。

(1)新規性に対す引用文献の実施可能性

 引用文献にアカルボースの精製方法の記載がなかったため,刊行物適格性が争われた。
 判決ではXが引用文献公開時に高純度のアカルボースを得ていたこと,およびアカルボースの精製方法が従来知られていたことに加え,一般に精製の繰り返しにより高純度の化学物質を取得できるという科学常識を認定し,当業者が出願時に高純度のアカルボースを得ることが可能であったとの結論を導いた。
→ 新規性の文脈で刊行物記載の発明に実施可能要件を求めるのは,引用文献の信頼性の担保に目的がある。そうであれば,出願前の技術水準によって一応利用可能な発明が開示されたときは,「特別の思想を要することなく実施できる程度」までなくとも新規性が失われると考えることもできる。

(2)明細書の記載要件としての実施可能性
 「本件特許の出願時において,当業者が,本件明細書の特許の詳細な説明に記載された精製方法によって,純度98重量%を超える精製アカルボース組成物を容易に得ることができたと認めることはできない」。
→ 明細書の記載要件としての実施可能性は,特許と公開の代償関係から導かれる。



 まとめと感想
 発明の同一性は,検索式で同一又は類似の特許が含まれる蓋然性の高い文献集合を作り,その文献を読み込むときに必要な考え方だと思いました。
 引用文献に記載された発明と本願記載の発明で,表現(特性など)が違うというだけの理由で異なる発明と判断すると,新規性を否定する文献を見逃すことになると思います。

 引用文献記載の発明に関する発明の開示についても,状況に応じて「どの程度の記載があれば十分か」を意識することが必要だと思いました。
posted by NEDS at 16:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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