2014年03月02日

知財読書日記 「日米欧 重要特許裁判例 ―明細書の記載要件から侵害論・損害論まで―」

 知財に関する本の紹介や読書で学んだこと,感想などなどをブログに書いてみようと思いました。
 今回読んだ本は,




 日米欧 重要特許裁判例 ―明細書の記載要件から侵害論・損害論まで―

 片山英二,大槻雅博,日野真美,黒川恵
 株式会社エイバックズーム
 2013年5月23日


 日米欧の裁判例を読み比べたい人におすすめの一冊でした。

 裁判例には様々なケースに応じた裁判所の判断が記載されています。
 そのためサーチャーである私にとっては,裁判例を学ぶことで,裁判で使用する無効資料などを探すときにより適切な引例を選択するためのノウハウを知るヒントを得られると思いました。

 たとえばラセミ体が記載された引例がある場合,日本の新規性・進歩性と米国の新規性・非自明性は裁判でそれぞれどのように判断されていたか? を見ると・・・。


 本書の67ページに日本の裁判例として置換ベンジンアルコール事件(東京高裁 平成3年(行ケ)第8号,判時1403号104ページ)についての解説があり,本書の155ページには米国判例として Sanofi-Synthelabo vs Apotex, 550 F.3d 1075 (Fed.Cir.2008)についての解説が記載されています。


 日本国内の場合は,置換ベンジンアルコール事件を見ると,

・当該の分子が一対の光学異性体から成るラセミ体であることは当業者にとって技術常識である。
・光学異性体は,一般に旋光性の方向に差異があるものの,それ以外の物理的化学的性質には差異がないことも当業者にとって技術常識に属する事項である。
 ↓
 「引例にラセミ体であるRSアルコールが開示されているということは,同時に,同ラセミ体を形成している一対の光学異性体の一方であるSアルコールが開示されているというに等しいといえる。」

 という趣旨の判示があり,物の発明として新規性なしと判断されました。



 米国の事例(Sanofi-Synthelabo vs Apotex 本書155ページ)では,SanofiがApotexを米国特許4,847,265の侵害を理由に提訴。→ Apotexがラセミ体公知に基づく特許無効の抗弁 というCAFC判決が紹介されています。

(1)新規性

・先行文献にはラセミ体が記載されているのみ。
・クレームの構成要件である右旋性の光学異性体であること,硫酸塩であることは先行例に記載されていない。
 ↓
 クレームに記載された化合物は新規。


(2)非自明性

 米国の自明性の判断は各事案の事実関係によるので・・・。

a) Forest Laboratories事件では,シタロプラムの(+)光学異性体の治療効果が予測できないものであったとの立証。→ ラセミ体に基づいて自明ではなかったとの原判決を維持。
b) Aventis Pharma vs Lupin判決(Fed. Cir. 2007)では,ラミプリル光学異性体の効果は,不活性あるいはほぼ不活性の他方の光学異性体の混合物と比較して,予測される程度であったと判示。→ 自明と判断された。

 本件は証拠からa)に近い事案で非自明性を認める。→ 地裁の判断を維持して特許有効,侵害と判断。

 という結果でした。

 この裁判ではラセミ体に関する他の裁判例として,In re Adamson判決 (ラセミ体に基づいて光学異性体は自明と判断)も引用していました。


 これらの日本と米国の裁判例や,それぞれの裁判例について書かれた「コメント」を見ると,

・日本:ラセミ体公知→ 他の光学異性体も公知と判断
・米国:得られたの光学異性体の性質が,他の光学異性体の予測の範囲内か? 予測を超えるものか? で非自明性を判断

 という,国による判断の傾向の違いがわかります。
 また,71ページに記載されている置換ベンジンアルコール事件に対するコメントには,欧米との取扱いの違いとして,出願当時,ラセミ分割の方法が知られていなかったにも関わらず新規性なしと判断されているとの記載がありました。
 ラセミ体が引用文献に記載されていた場合の進歩性判断については,72ページにコメントとして「(進歩性の問題として判断されている判決でも)顕著な効果の主張も阻害要因の主張も,認められるのは困難である。」との記載をした上で,ジピクロン含有睡眠改善剤事件(東京高裁 平成15年(行ケ)第62号)とベーター2-気管支拡張薬事件(知財高裁 平成18年(行ケ)第10498号)に関する簡単な説明が書かれていました。

 これらの裁判例やコメントから,無効資料調査でラセミ体に関する引例があった場合・・・

・日本:ラセミ体の記載があれば無効資料となり得る
・米国:ラセミ体の性質や効果に関する記述に注意して無効資料となり得る可能性を検討する

 ということがわかりました。



 今回のブログで紹介したラセミ体の裁判例は,この本の内容のごく一部に過ぎません。
 序章の「日米欧の訴訟手続き」には,各国の特許に関する訴訟の概要について書かれていて,第一章〜第六章には,特許請求の範囲・明細書の記載要件,新規性・進歩性,補正・訂正(新規事項追加),発明者の認定・職務発明,侵害論,損害論 のテーマごとに裁判例とその解説が書かれています。
 第八章には特許に関する特別規定として秘密保持命令に関する日本の裁判例,第八章には複数の判断機関による判断の齟齬とその調整が記載されていました。
posted by NEDS at 16:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
Copyright (C) 2011 Needs Design. All Rights Reserved. <管理者>ニーズデザイン(長内悟)    <連絡先>s_osanai@neds-ip.com