
自社の発明を特許出願して権利化しても、その特許発明を事業で実施できない場合があります。
はたして、どのような場合でしょうか?
以下、「工業所有権法逐条解説(第20版)」の「特許法72条」(271ページ〜272ページ)の説明をまとめてみました。
特許法では、自分の特許権を実施できない場合について、規定しています(特許法72条)。
・自分の特許の出願前の特許発明、登録実用新案、登録意匠(もしくはこれに類似する意匠を利用するもの)を利用するものであるとき。
・特許権がその特許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するとき。
例1 特許の実施で他人の特許を利用し、実施許諾が必要になる場合。
@ 甲が合金Xを生産する機械を発明し、特許を受けた。
A 乙が@の機械を使って合金Yを生産する方法を発明し、特許を受けた。
B 乙がAの特許を実施する場合、甲に@の機械を使用することについての実施許諾を得なければならない。
例2 特許権と意匠権を抵触する場合。
・自動車のタイヤに特殊な凹凸をつけ、タイヤの摩耗を少なくすることで特許権の対象となり得る。
・同じ凹凸をつけることが視覚にうったえ美感をおこさせるときは、意匠権の対象にもなり得る。
例3 特許権と商標権が抵触する場合。
・物品の形状自体に関する発明が、特許権の対象となり得る。
・同じ物品自体の形状を表示する立体商標が、商標権の対象となり得る。
このようなケースが起きた場合の対応として、利用または抵触する特許の権利者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができます(特許法92条)が、事前に他者の権利を把握しておくことも大切です。
「特許権があれば、事業で自分の特許発明を実施できる。」という話しは誤解です。
特許権があってもきちんと侵害予防調査をして、事業のリスクを減らしてはいかがでしょうか?
参考資料:工業所有権法逐条解説(第20版) 特許法
