2016年03月21日

市場シェアと特許の関係 〜平成26年度 特許出願技術動向報告書を読んで〜

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 「平成26年度 特許出願技術動向報告書 製品の競争優位性を確立する際に知的財産等が果たす役割について」(平成27年3月 特許庁)の概要を読んだ感想をまとめてみました。

 この資料は、特許庁のサイト(https://www.jpo.go.jp/shiryou/pdf/gidou-houkoku/26_20.pdf)からダウンロードできます。
 全文を読みたい方は、図書館等でご覧下さい。

 私が読んだ感想ですが、特許が製品の競争優位性を確立する主な条件として、次の3点があげられると思われました。

・市場の特性を考慮した技術開発と特許出願。
・特許+技術的な困難性(ノウハウ等)による製品の保護。
・幅広い技術的な範囲で重要特許を確保。

 これらは特に目新しい結論とは言えませんが、今まで特許出願の方針として言われてきた話しを裏付けるものと考えられました。


 以下、この報告書を読んだときに作成した要点のメモです。

調査目的:企業の有する知的財産権や企業の知的財産戦略等と市場シェアとの関係性を調査し、それらの製品が競争優位性を確立する際に、知的財産権等が果たす役割を分析すると共に、それらの結果を今後、日本企業や政府が取り組むべき知的財産戦略に反映していくことを目的とする。 

ア)製品のコア技術を自社が開発し、当該コア技術について特許権を取得した場合であって、当該特許権の期限が切れたことによって当該者の製品の市場における競争力(市場シェア)が失われた事例

a 糖尿病治療薬
・併用、合剤、効能追加、新規剤形の重要特許で競争が激化。


b DRAM
・「特許の藪」があって必須特許がなく、権利行使による差止請求で双方の相打ちが避けられない状況。

・各社が持つ特許が侵害回避可能。

・他社とのライセンス契約への抵抗感も特に存在していない。

・一方で90年代以前に日本のDRAMメーカーが大きくシェアを伸ばした背景に、重要特許の大半を日本のメーカーが占めていたことによると考えられる。

・技術が参入障壁として機能していなかった。

・海外メーカーが日本を上回る研究開発力と開発投資力があり、優れた製品を安く作れた。→ サムスン電子の重要特許が幅広い技術領域をカバーするようになる。一部の技術で日本のメーカーの重要特許の出願件数を上回る。

・日本起業は、海外メーカーの大量生産等による価格低下の流れに対応できず、シェアを失う。

・必須特許が出願され尽くしてコモディティ化。

【感想】
・「他社とのライセンス契約に抵抗がない」とされているが、重要特許を複数の企業が所有していた場合、クロスライセンスはやむを得ないのでは?

・仮に必須特許があったとしても、必須特許が標準必須特許の場合、FRAND宣言→ ライセンス供与 という流れになりそうなので、特許+技術の困難性や営業秘密を利用した参入障壁が望ましいと思われた。

・他社の研究開発力と開発投資力による、重要特許の出願件数増加と大量生産による低価格化が市場シェアを失うリスクになる。

・幅広い領域の重要特許の出願が、市場シェアを確保するチャンスにつながる。


イ)製品のコア技術を自社が開発し、当該コア技術について特許権を取得した市場シェアを維持している事例

c 前立腺がん・乳がん治療薬
・上市後の特許が患者のつなぎ止めに有効に機能した。

・重要特許のレベルで幅広い技術領域をカバー。

・後発医薬品メーカーにとって製造が難しい医薬品であったことが、後発医薬品の追従からシェアを維持(技術的困難性)。


d 内視鏡
・「新しい課題」(医師のニーズ)をつかむことが重要。

・重要特許の技術内容を見ると、幅広い技術領域をカバーしている。

・技術のイノベーションを継続(重要特許の出願件数は、幅広い技術領域で増加、維持している)。
→ 「新しい課題(医師のニーズ)をつかむことが重要」との記述と関連。
 → 研究開発で医師と連携


e デジタルカメラ
・ユニットの技術の囲い込み。

・各技術・部品のすり合わせ領域の競争力を強化。

・技術力を背景に、レンズマウントによるプロフェッショナル層の囲い込みで成功。

【感想】
・上市後の継続的な特許の権利化。→ 「ニーズの発掘」による継続的な製品の改良が大切。

・重要特許で広い技術領域をカバー。

・特許+技術力による、ユーザーの囲い込みが可能なケースもある。


ウ)製品のコア技術を自社が開発し、当該コア技術について特許権を取得した場合であって、当該特許権の期限が有効な期間にあっても、競合他社の製品が市場で競争力(市場シェア)を持つ事例

f 液晶パネル
・日本企業は液晶パネルか画像処理用LSIのどちらか一方を内製し、他方は外部から供給を受けていた。中国企業は液晶パネルと画像処理用LSIの双方を外部から供給を受け、それらを組み合わせる開発体制だった。
→ 日本に液晶パネルと画像処理養LSIの両方を内製化していれば、すり合わせ領域の技術競争力を強化することができるので、技術困難性を高めることができた可能性がある。

・シャープを除き、日本の液晶テレビメーカーの多くがモジュール製造工程以降のプロセスで付加価値の低い組立作業が中心。→ 海外工場での製造やEMSへの製造委託を活用。

・1990年代後半からの日本メーカーのシェア低下と、日本がコスト重視で重要な技術を海外の競合メーカーに拡散させた時期が重なる。→ 海外メーカーが日本から拡散した重要な技術やノウハウを活用して、液晶パネルの生産を効率的に行うことができたと考えられる。

・シャープが液晶パネル市場で競争優位性を維持できなかった原因は、開発投資力の大きい中国に有利な大型化に経営資源を集中させたためとされている(当時、テレビ市場が成熟期には入り、テレビ本体の価格が下がり、投資回収が困難になったことも原因)。

・液晶の基本特許は欧米が持っていた。


g 太陽光パネル
・国によりニーズが異なる。高い変換効率が求められるのは日本とドイツのみ。海外のほとんどの国や地域では、多少変換効率が下がっても、安い太陽光パネルを大量に設置すれば発電の目的を達成できた。

・古い技術で、基本特許はすでに満了。中国や台湾のメーカーは、古い技術を使って、低スペックな太陽光パネルを安く提供した。

・日本市場では日本メーカーが保有する特許ポートフォリオがシェアの維持に寄与したと考えられるが、グローバル市場では中国・台湾メーカーの製品が圧倒している。

・太陽光パネル事業は、国の補助金事業が終了すると経営が立ち行かなくなるメーカーがほとんどだった。

・シリコン流通の変化により、日本のメーカーがシリコンの調達が困難になって競争力を失った。

【感想】
・太陽光パネルの事例から、同じ製品でも国、地域、気象条件等の特性を考慮した市場のセグメント化と、それぞれのセグメントに適した製品の開発や特許の出願が有効と思われた。(最新の技術が必ずしも競争で優位に立てる要因になるとは限らない)。

・特に基本特許の期限が満了している場合、技術的な困難性が高ければ、他者の参入が困難になる可能性があると思われた。

・技術流出に注意。




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2016年01月12日

本の紹介「研究開発&特許出願活動に役立つ 特許情報調査と検索テクニック入門」

特許情報調査と検索テクニック入門

特許情報調査と検索テクニック入門
著者:野崎篤志
価格:3,240円(税込、送料込)
楽天ブックスで詳細を見る



研究開発&特許出願活動に役立つ 特許情報調査と検索テクニック入門
野崎篤志 著
発明推進協会
平成27年10月30日


 技術開発などの仕事で特許調査をされる方、特許調査を学びたい方にぜひ読んで頂きたい教科書的な本です。

 この本には、特許調査の考え方、特許分類や検索式作成の基礎知識、J-PlatPatの使い方など、特許調査をするために必要な知識が一冊にまとめられています。

 特許調査には出願前や審査請求前の特許調査、無効資料調査、侵害予防調査(侵害回避調査)、技術情報収集のための調査など、様々な調査があります。
 これらの特許調査をするためには、それぞれの調査の目的にあわせて、特許分類、検索式作成、データベース活用のノウハウを組み合わせ、目的を達成できる調査をしなければなりません。

 この本のすばらしいところは、普段の仕事で特許調査や技術文献の調査にあまり縁がない方でも、特許調査の基礎が理解できるように詳しく書かれていることだと思いました。

 たとえば特許検索をするとき、「グーグル検索のようにキーワードを入力すれば特許が見つかる」と誤解されていらっしゃる方もいますが、WEB検索やAmazonの商品検索と特許検索の違いについて、「第1章 情報をさがす〜本探しと特許検索のアナロジー〜」でわかりやすく説明されています。

 第2章以降に、特許制度や特許調査の種類など、特許調査に必要な基礎知識と特許分類の説明、第3章にデータベース、演算子、キーワードの選び方などが書かれており、第4章以降に様々な特許調査のノウハウがまとめられています。
 第6章の「特許検索マトリックスとその利用方法」は、調査する技術を適切に検索式へ反映させるときに必要な考え方です。

 ある程度自分で特許調査を学びたい方は、実際にJ-PlatPatやespacenetなどのデータベースを操作してみるといいかもしれません。

 なお、この本は2016年1月12日現在、
Amazonや書店では入手困難ですが、楽天ブックスには在庫があります。







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2015年09月30日

読書日記 「特許調査入門[改訂版]サーチャーが教えるJ-PlatPatガイド」 「MPEPの要点が解る米国特許制度解説 第3版」

 最近読んだ、特許関係の本を2冊まとめて紹介します。

「特許調査入門[改訂版]サーチャーが教えるJ-PlatPatガイド」
酒井美里 著 一般社団法人発明推進協会 2015年7月22日



 J-PlatPatの使い方と、特許調査のノウハウが詰まった一冊。
 J-PlatPatで特許検索をする際の基礎知識から、テキスト検索と分類検索の違い、出願人で検索する場合のノウハウ、WIPO標準ST.16(特許文献の識別のためのコード)の解説などなど、日常的に特許調査を行うために必要な話しが盛りだくさん。
 本のタイトルに「入門」と書かれていますが、入門者だけでなく、日常的に特許調査をされる方にもおすすめの実用的な内容です。


「MPEPの要点が解る米国特許制度解説 第3版」
 丸島 敏一 著 株式会社エイバックズーム 2015年7月10日



 米国特許法、規則、審査便覧(MPEP)を中心に、実務的な視点から書かれた米国特許の制度の解説です。
 文中にCFRやMPEPの記載箇所が書かれているので、CFRやMPEPを学ぶ際に参考になりました。

 このブログで紹介した本は、「NEDSの本棚」でも掲載しています。
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2014年04月28日

【お知らせ】 「ニーズデザインの本棚」を開設しました。

【お知らせ】

 今までに読んだ本や実際に使用した物の一部を紹介する,「ニーズデザインの本棚」を開設しました。

 ニーズデザインの本棚
 http://astore.amazon.co.jp/needsdesign-22
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2014年04月19日

本の紹介 「特許法 第二版」(中山信弘 著 弘文堂 平成24年9月15日)

 「特許法 第二版」(中山信弘 著 弘文堂 平成24年9月15日)の紹介です。



 この本は特許法に関する解説がまとめられており,平成23年改正を含めた特許制度や特許法について専門的に学ぶことができました。
 第1編の序章には工業所有権法とそれに関連する法分野についての概要が書かれており,第2章に国内外の工業所有権法の歴史,第2編以下に特許法に関する解説が書かれています。


 特許調査を行う際に理解しておいた方がよいと思われる記述が多数あったため,この本から学んだことのメモの一部をまとめました。

 矢印以下が特許調査で役立つと思われたために書いた私のメモです。


・職務発明に関して,「現行法では過去の職務に属する発明も職務発明となる。ここでいう過去の職務とは,発明当時勤務していた組織内での過去の職務であり,退職後の発明は職務発明とはならないと解すべきである。」(60ページ)
→ 発明者について調査を行う場合には,その発明者が発明した技術が現在の勤務先や職務の内容とは関連がない場合もあるので注意する。


・発明の種類に関して,「先後願の判定においても,技術的思想が同一である限り,クレームの記載上,方法発明と物の発明に違いがあっても,同一と認める妨げとはならない。」(114ページ)
→ 特許調査を行う際に,発明の種類(物の発明,方法の発明)の違いにこだわってはいけない。


・拡大先願に関して,「後願の排除は,最初に添付した明細書等に限定されており,出願後に補正により追加されたものは含まれない。」(131ページ)
→ 拡大先願を理由に特許文献を無効資料とする際には,最初に添付した明細書を引例とする。


・特許法29条の2と39条の後願を排斥しうる範囲の違い。(132ページ)

 時間的範囲:29条の2は後願の出願日前の出願についての規定。
       39条は同日出願にも適用がある。

 物的範囲:29条の2は先願の願書に最初に添付した明細書等(外国語書面を含む),実用新案請求の範囲または図面。
      39条は確定した特許請求の範囲に限定される。


・後願を排斥できる条件の違い。(132ページ)
 39条は,先願の取り下げ,放棄,却下,拒絶査定・審決が確定したときは後願を排除することができない(最初からなかったものとみなされる)。
 29条の2では特許出願が最初からなかったものとみなされた場合に後願を排除できなくなることはない。
 29条の2は,先願と後願の発明者が同一人である場合には適用されない。
 39条は,先願と後願の発明がが同一人である場合に適用されないという限定はないが(第5項),先願が冒認出願である場合には先願の違いはなくならない(平成23年改正39条6項)。
→ 29条の2と39条の違いに注意。

・29条の2と39条に関して,「以上のような差異はあるものの,事実上,先願の利用の多くは29条の2で処理されているが双方の条件を満たす場合も多く,いずれかの条文を適用して拒絶すればよい。」(132ページ〜133ページ)

 関連:後述の国内優先権主張を伴った出願については,出願日から1年3ヶ月を経過すると取り下げたものとみなされ(42条),先願の地位が失われるため,拡大先願が認められる(41条3項)。(208ページ)


・パリ条約の4条Bの優先権に関して,「わが国への出願明細書に記載されている発明で,第一国出願の明細書に記載されている発明については,第一国の出願日を公知の擬制日とされている。」(133ページ)
→ パリ条約ルートで日本へ出願された引例があった場合は,第一国の出願日を確認する。


・仮専用実施権(34条の2)に関して,「平成20年改正で,特許を受ける権利を有する者は,特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権につき願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲,または図面に記載した事項の範囲内において,仮専用実施権を設定することができるようになった。」(161ページ)
→ 侵害回避調査では仮専用実施権にも注意。
  仮通常実施権(34条の3 161ページ〜162ページ)も同様。


・国内優先権主張に関して,「国内優先権主張の基礎とされた先の出願の願書に添付した明細書,特許(実用)新案請求の範囲または図面(外国語書面出願では外国語書面)に記載されている発明については,特許要件の判断の時点につき,優先権の主張ができる(41条2項)。優先権の判断は請求項ごとに行われ,請求項ごとに特許要件の判断時が異なることになる。」(205ページ)
→ 調査対象の発明の国内優先権主張と調査対象の期間に注意する。


・国内優先権主張に関して,「国内優先権の主張を伴った出願が公開された場合には,先の出願にも拡大された先願の地位が認められる(41条3項)。」
関連:先願と拡大先願(132ページ〜133ページ)


 以上はあくまでも私のメモの一部です。
 これら以外にも,無効資料調査を行う場合は袋包禁反言を意識して可能な範囲で袋包を確認した方がより確実な引例を探すためのヒントが得られるとか,39条5項に基づき特許出願を放棄した者がもう一度出願した場合に放棄した出願が公開されていない限り自分の先願により拒絶されないこと,新規性や進歩性などなど,この本から多くの特許調査のノウハウや考え方を学ぶことができました。
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2014年03月02日

知財読書日記 「日米欧 重要特許裁判例 ―明細書の記載要件から侵害論・損害論まで―」

 知財に関する本の紹介や読書で学んだこと,感想などなどをブログに書いてみようと思いました。
 今回読んだ本は,




 日米欧 重要特許裁判例 ―明細書の記載要件から侵害論・損害論まで―

 片山英二,大槻雅博,日野真美,黒川恵
 株式会社エイバックズーム
 2013年5月23日


 日米欧の裁判例を読み比べたい人におすすめの一冊でした。

 裁判例には様々なケースに応じた裁判所の判断が記載されています。
 そのためサーチャーである私にとっては,裁判例を学ぶことで,裁判で使用する無効資料などを探すときにより適切な引例を選択するためのノウハウを知るヒントを得られると思いました。

 たとえばラセミ体が記載された引例がある場合,日本の新規性・進歩性と米国の新規性・非自明性は裁判でそれぞれどのように判断されていたか? を見ると・・・。


 本書の67ページに日本の裁判例として置換ベンジンアルコール事件(東京高裁 平成3年(行ケ)第8号,判時1403号104ページ)についての解説があり,本書の155ページには米国判例として Sanofi-Synthelabo vs Apotex, 550 F.3d 1075 (Fed.Cir.2008)についての解説が記載されています。


 日本国内の場合は,置換ベンジンアルコール事件を見ると,

・当該の分子が一対の光学異性体から成るラセミ体であることは当業者にとって技術常識である。
・光学異性体は,一般に旋光性の方向に差異があるものの,それ以外の物理的化学的性質には差異がないことも当業者にとって技術常識に属する事項である。
 ↓
 「引例にラセミ体であるRSアルコールが開示されているということは,同時に,同ラセミ体を形成している一対の光学異性体の一方であるSアルコールが開示されているというに等しいといえる。」

 という趣旨の判示があり,物の発明として新規性なしと判断されました。



 米国の事例(Sanofi-Synthelabo vs Apotex 本書155ページ)では,SanofiがApotexを米国特許4,847,265の侵害を理由に提訴。→ Apotexがラセミ体公知に基づく特許無効の抗弁 というCAFC判決が紹介されています。

(1)新規性

・先行文献にはラセミ体が記載されているのみ。
・クレームの構成要件である右旋性の光学異性体であること,硫酸塩であることは先行例に記載されていない。
 ↓
 クレームに記載された化合物は新規。


(2)非自明性

 米国の自明性の判断は各事案の事実関係によるので・・・。

a) Forest Laboratories事件では,シタロプラムの(+)光学異性体の治療効果が予測できないものであったとの立証。→ ラセミ体に基づいて自明ではなかったとの原判決を維持。
b) Aventis Pharma vs Lupin判決(Fed. Cir. 2007)では,ラミプリル光学異性体の効果は,不活性あるいはほぼ不活性の他方の光学異性体の混合物と比較して,予測される程度であったと判示。→ 自明と判断された。

 本件は証拠からa)に近い事案で非自明性を認める。→ 地裁の判断を維持して特許有効,侵害と判断。

 という結果でした。

 この裁判ではラセミ体に関する他の裁判例として,In re Adamson判決 (ラセミ体に基づいて光学異性体は自明と判断)も引用していました。


 これらの日本と米国の裁判例や,それぞれの裁判例について書かれた「コメント」を見ると,

・日本:ラセミ体公知→ 他の光学異性体も公知と判断
・米国:得られたの光学異性体の性質が,他の光学異性体の予測の範囲内か? 予測を超えるものか? で非自明性を判断

 という,国による判断の傾向の違いがわかります。
 また,71ページに記載されている置換ベンジンアルコール事件に対するコメントには,欧米との取扱いの違いとして,出願当時,ラセミ分割の方法が知られていなかったにも関わらず新規性なしと判断されているとの記載がありました。
 ラセミ体が引用文献に記載されていた場合の進歩性判断については,72ページにコメントとして「(進歩性の問題として判断されている判決でも)顕著な効果の主張も阻害要因の主張も,認められるのは困難である。」との記載をした上で,ジピクロン含有睡眠改善剤事件(東京高裁 平成15年(行ケ)第62号)とベーター2-気管支拡張薬事件(知財高裁 平成18年(行ケ)第10498号)に関する簡単な説明が書かれていました。

 これらの裁判例やコメントから,無効資料調査でラセミ体に関する引例があった場合・・・

・日本:ラセミ体の記載があれば無効資料となり得る
・米国:ラセミ体の性質や効果に関する記述に注意して無効資料となり得る可能性を検討する

 ということがわかりました。



 今回のブログで紹介したラセミ体の裁判例は,この本の内容のごく一部に過ぎません。
 序章の「日米欧の訴訟手続き」には,各国の特許に関する訴訟の概要について書かれていて,第一章〜第六章には,特許請求の範囲・明細書の記載要件,新規性・進歩性,補正・訂正(新規事項追加),発明者の認定・職務発明,侵害論,損害論 のテーマごとに裁判例とその解説が書かれています。
 第八章には特許に関する特別規定として秘密保持命令に関する日本の裁判例,第八章には複数の判断機関による判断の齟齬とその調整が記載されていました。
posted by NEDS at 16:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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